ふくしまクリニック

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父親が仕事で使っていたダットサンの下から、鳴き声が聞こえる。ネコだろうな。小学生だった僕と兄は、車の下を覗き込んだ。ニーニーッとないてるのは、ネコ。間違いない。白と茶と黒の入り混じった、片手に乗るかもしれない、小さいネコだった。「捕まえよう。」と、兄は、はしゃぎ、僕は困惑した。牙を剥き、ナキサケブその姿は、僕に恐怖心を与えるには十分だった。「たけし、持っといて。」と、捕まえた兄は、僕に恐怖を押し付けてきた。怖い、小さい、爪が痛い。直ぐにネコは僕の手から飛び降り、ダットサンの下に潜り込んだ。春の麗らかな陽気が感じられる時期だった気がする。

僕は、いつもミーコと一緒に寝ていた。夜中にふと目覚めた時に、彼女は部屋の隅の一点をよく見つめていた。何か見えるんだろうな。任せとくわな、と、いつもミーコに縋っていた。その頃から僕は、ネコ語を話せるようになっていた。ミーコの痒いところも分かるし、僕の痒いところも掻いて貰っていた、気がする。やがて、僕は大学生となり、鰹節とジャコばかりで大きくなったミーコも老いていく。
ネコは死期が近づくと、いなくなる、らしい。みんな、そう言う。そうなのかな。ある日、僕はミーコに話をした。ネコ語で。「ミーコ、ミーコが死ぬときには、僕が見つけてあげるから、何処も行かず、ここでおりや。」「了解。」と会話した、気がする。
 季節は移ろい、節分には豆まきをする。横の畑にも霜が降り、炬燵が恋しい。母は、いつも隣の家にコーヒーを飲みに行き、世間話をする。2月5日の朝も母は多分、コーヒーブレイクに行ったのだろう。僕もコーヒーをおよばれするか、と玄関を出た。何が目に留まったというのではないが、いつも彼女が遊んでいた畑の一角で、ミーコが冷たくなっていた。全てを一瞬で理解でき、母親を呼び戻し、ミーコを家の中にいれた。悲しみと感謝とが入り混じったまま、僕は下宿に戻った。

 アメリカンショートヘア、生まれて間もないネコが来た。最近は、食事管理や体重管理やと、ミーコの時とは全然違う。が、ネコはネコ。僕がネコに好かれない分けがない。とは、思ったものの、父と母が面倒を見ている手前、アメショも、僕に良い顔をしにくいのだろう。向こうにばかり懐く。仕方ないと、昔学んだネコ語を使い、話しかけてみた。ん?何故、逃げる?アメショは、僕が近づくと逃げる。

 ミーコの壺のよこで、ネコが逃げ回っている。既に僕の言語は通じず、時代の移り変わりを感じる。奴は僕が近づくと逃げ、近づかなくても寄ってこない。なかなか可愛がらせてくれないネコを横目で見ながら、僕は、ミーコの壺をそっと撫でた。
外には桜が咲き始めていた。