不思議なことは、たくさんある。小学生の時に、寝ようと思った21時頃、お経が聞こえてきて、風呂に入っている母親を呼びに行った、あの時のお経の声も覚えているし、同じような頃、当時は鍵などかけなかった祖母の家の風呂に、見知らぬ男性が入浴していて、警察に連絡した午前2時の出来事も懐かしい。
数年前、クリニックで携帯電話を2件契約した。こちらから電話をかけるため専用とし、1台は受付けに、1台は診察室で利用した。受付けの携帯電話機が無くなったと騒ぎだしたのは、1年ほど前のことだった。机の中、椅子の下、あり得ないところまで大捜索したが、見つからない。職員全員で探したつもり、だった。
クリニックの北側は、空き地になっている。職員の通り道にもなっていて、草が生い茂ると、持ち主の方が草を刈って下さり(近所の方も刈って下さる)、非常に有難く、駐車場からの近道として利用させていただいている。この時期の雑草の成長する速度には、目を見張るものがある。獣道のように、職員が通るところだけ、草が倒れているのも趣深い。
ある日曜日、クリニックで洗濯をしようと、北側に回ると、草を刈って下さってある。暑いのに大変だったろうな。ふと、足元に目がいった。何かが置いてある。無くなったはずの受付け携帯が、泥まみれで、そこにあった。草を刈って下さった方に聞いてみると、誰も通らないような草叢の深いところに落ちてましたよ、と。
その携帯は、既に解約していたので、そのまま捨ててもよいのだが、私は、自分への戒めとして、保管してある。携帯が自らそこへ歩くことは多分ないし、深い草叢に誰かが間違って落とすこともない。この事件の真相は闇の中だが、泥まみれの携帯は、私に現実を教えてくれた。
クリニックには悪戯好きの妖怪が住んでいるかも知れないことと、診察室の携帯は、今日も元気に使用されていることである。噂は噂に過ぎない。